人口流出や人口減少により空き家が増え、貧困層の増加と高齢化が進み、人々のつながりが希薄になったこの地に、みんなの拠り所となる場所を計画し「つながり」を結び直すきっかけをつくります。ここに訪れる人々が自分の物語を投影できる銀幕のような場所、人々がつながることで新たな物語が紡がれる場所となることを期待します。
・大和高田のかつてと現在
敷地は古都奈良の中部の小さな町にあります。かつては活気にあふれた商都で、通りは人で賑わい、昔ながらの迷路のように入り組んだ細い路地では子ども達が走り回って遊ぶ風景がありました。現在では見る影もなく、地元産業の繊維工場が次々に撤退したことをきっかけに、人口流出や人口減少により空き家が増え、行き場のない貧困層の増加と高齢化が進んでいます。特に子どもの貧困はかなり深刻な状況です。人々の「つながり」が希薄になったため、この町の貧困はとても見えにくく、誰にも気づかれず、頼ろうにも頼れる人が周りにいないという苦しみを貧困層は抱えています。
・プロジェクトの概要
大和高田市永和町にある空き家通りに「子ども映画食堂」をつくります。車も通れない細い路地に佇む町屋を改修し、飲食店をやりたいという人を対象にスペースを間貸しします。プロジェクトの目的は、かつてこの町にあったような人と人との緩やかな「つながり」を結び直すことです。躓いたときに話ができる人、励ましてくれる人、支えてくれる人がいる、そんな「つながり」を結ぶ人々の拠り所として、子どもや若者、大人までが集う場所を目指します。
子どもは無料で利用できるようにし、賃料で得た収益を子どもの食事代等のサービス利用料にあて、余ったお金を周辺の空き家改修事業に投資します。今後の展開として、少しずつこの通りの空き家を改修していき、通り一帯が地域の人々の居場所となり、貧困層の子供たちのセーフティネットとなることを目指します。
また、ゲストを招いたトークイベントや子育てイベントなど、一定のテーマで絞ったイベントを開催することで、テーマ型コミュニティの形成も予定しています。
・つながりを結ぶはじまりの場所として
築100年以上の町屋を改修するにあたり、まず利用者の安全性の確保のため、構造体として右図のようなboxを内部に挿入しました。既存の構造体は極力活かし、町屋の趣があるどこか懐かしい雰囲気を残しています。
また、今後の展開で周辺の空き家も改修し、このエリア全体が人々が集う場所として機能するように建物内部だけで完結する計画ではなく、路地にまで人の活動が染み出すよう計画しました。